目次
第1章:その“シリコン”って、実は間違ってるかも?

「この化粧品、シリコン入ってるからダメだよね…」
「ノンシリコンだから安心!」
――そのシリコン、実は少し違います。
多くの方が「シリコン」と呼んでいるこの成分、正式には「シリコーン」といいます。
“シリコン”と“シリコーン”――名前は似ていますが、まったくの別物なんですね。
■ シリコン(Silicon)とは?
- 元素記号:Si
- 地球上で酸素に次いで多い元素。
- ガラスや半導体の材料になる、無機物質です。
■ シリコーン(Silicone)とは?
- ケイ素(Silicon)をベースに、有機成分を結合した有機ケイ素化合物。
- 柔らかく、撥水性・耐熱性・滑り性などに優れています。
- 私たちの身の回りでは、化粧品・ヘアケア製品・医療材料にも使われています。
つまり、「肌に悪いのはシリコンでしょ?」というのは、正確には“名称の違い”から生まれた誤解なんです。
第2章:シリコーンとは何か?

シリコーンとは、ケイ素を中心とした合成高分子化合物です。構造的には、Si(ケイ素)とO(酸素)が交互に並ぶ“シロキサン結合”をベースにし、その周囲に有機基(メチル基やフェニル基など)がくっついた形をしています。この構造が、シリコーンならではの性質を生み出しているのです。
■ シリコーンの特徴
特性 | 解説 |
---|---|
耐熱性 | 熱に強く、化粧品中でも安定。ドライヤーやアイロン使用時でも安心。 |
撥水性 | 水をはじく性質があり、汗や湿気から髪や肌を守ります。 |
柔軟性・滑り性 | 摩擦を軽減し、髪や肌のきしみや引っかかりを防止します。 |
揮発性 | 揮発タイプのシリコーン(例:シクロメチコン)は塗布後にサラッと仕上がります。 |
■ 主なシリコーンの種類(化粧品表示名)
成分名 | 特徴 |
---|---|
ジメチコン | 最も一般的な保護膜系シリコーン。なめらかな使用感。 |
シクロペンタシロキサン | 揮発性で軽い仕上がり。ベタつきにくくサラサラ感が出ます。 |
アモジメチコン | 帯電防止作用があり、髪への吸着性が高い。カラーケア製品などに。 |
このように、シリコーンは“ひとつの物質”ではなく、複数のバリエーションがあるのです。それぞれの特性を活かし、化粧品の目的に応じて最適なものが選ばれています。
第3章:シリコーンが美容製品に使われる理由

シリコーンは、化粧品やヘアケア製品の“使用感”と“仕上がり”を大きく左右する成分です。
「つるん」「するん」「サラサラ」「ツヤツヤ」……
私たちが“心地よい”と感じる使用感の多くに、実はシリコーンの働きが関わっています。
■ スキンケア・メイクアップでの働き
用途 | シリコーンの役割 |
---|---|
化粧下地・ファンデーション | 毛穴や肌の凹凸をなめらかに整え、メイクのノリ・もちを向上 |
日焼け止め | 紫外線防御成分の分散性を高め、使用感を軽くする |
保湿クリーム | 肌表面に薄い膜を形成し、水分の蒸発を防ぐ(トランスエピダーマルウォーターロスの抑制) |
■ ヘアケアでの働き
用途 | シリコーンの役割 |
---|---|
シャンプー・トリートメント | 髪表面のキューティクルを保護し、絡まり・摩擦を軽減 |
アウトバストリートメント | 熱からの保護(ドライヤー・アイロン)、ツヤ感UP、広がりを抑制 |
ヘアカラー後のケア | カラーの退色防止、手触りの改善 |
これらの作用により、シリコーンは「見た目の美しさ」と「摩擦からの保護」を両立させる成分として、非常に重宝されています。また、刺激性が低く、アレルギーを起こしにくいという点も、敏感肌にとっては安心材料のひとつです。
第4章:「シリコーン=悪者」説は本当なの?

「ノンシリコーンだから安心」
「シリコーンは髪や肌に蓄積するからNG」
「毛穴を詰まらせる」
――このような声を、皆さんも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?
シリコーンは、しばしば“悪者”扱いされがちです。ですが、そのほとんどが誤解やイメージ先行によるものです。では、科学的に何が事実で、何が誤解なのか。ひとつずつ見てまいりましょう。
誤解①:シリコーンは毛穴を詰まらせる?
→ 答え:詰まらせにくい性質です。
シリコーンは分子構造が大きく、肌の奥まで浸透しにくいため、角栓や毛穴詰まりの原因にはなりにくいとされています。むしろ、摩擦を減らしてバリア的に働くことから、敏感肌用処方でもよく使われている成分です。
誤解②:シリコーンは髪や肌に“蓄積”していく?
→ 答え:通常の洗浄では十分に落とせます。
シリコーンは水には溶けにくいものの、界面活性剤(シャンプーやクレンジング)により容易に洗い流せます。特に最近の製品は揮発性シリコーン(例:シクロメチコン)や、吸着しても蓄積しにくい処方が多く、使用後に残り続ける心配はほぼありません。
誤解③:シリコーンは“髪や肌にフタをして、呼吸を妨げる”
→ 答え:肌や髪は“呼吸”していません。
この表現は誤解を生みやすい比喩であり、生理学的に皮膚は酸素呼吸をしていません。「肌を覆う=窒息する」というイメージは、あくまで感覚的なもので、科学的根拠はありません。また、シリコーンの膜は通気性を持つ構造もあり、むしろ外的刺激からの一時的な保護膜として作用します。
■ 本質的な注意点は“落とし方”と“組み合わせ”
シリコーンそのものは非常に酸化しにくい安定した物質ですが、皮脂汚れや他の化粧成分が残留して酸化すると、肌トラブルの要因になることがあります。これはシリコーン自体の問題というより、洗浄不足や肌とのバランスの問題と言えるでしょう。これは他の成分でも同様で、「成分が悪い」のではなく「使い方」が鍵となります。
つまり、シリコーンは正しく使えば“肌や髪の保護に非常に優れた成分”であり、“悪者説”はあくまで一部の偏った解釈や誤った使い方によるものと言えるのです。
第5章:シリコーンとの上手な付き合い方

これまでの章で、シリコーンが非常に安定かつ安全性の高い素材であり、「悪者説」は誤解に基づくものであることを見てきました。では、実際のスキンケアやヘアケアにおいて、どのように使えば、シリコーンの利点を最大限に活かしつつ、肌や髪に優しいケアができるのか?その“バランス感覚”がこの章のテーマです。
■ ポイント①:落とすことを前提に“重ねない”
- シリコーンは揮発性タイプ(例:シクロメチコン、ジメチコン)も多く、
肌や髪に残りにくいよう設計されています。 - ただし、レイヤリング(重ね使い)しすぎると、洗浄の手間が増すのも事実。
- ヘアケアでは、洗い流さないトリートメント+スタイリング剤の多用により、
“つけすぎ”による重さや質感低下を感じることがあります。
■ ポイント②:シリコーン入りでも落とせるクレンジング&洗浄剤を選ぶ
- シリコーンは水だけでは落ちにくいですが、
界面活性剤を含むクレンジングやシャンプーで問題なく除去可能です。 - ノンシリコーン製品を使用しなくても、“適切な洗浄”ができていれば心配ありません。
■ ポイント③:肌や髪の状態に応じて“使い分け”を意識する
- 髪がパサつきやすい、広がりやすい方には、
ジメチコンやアモジメチコン配合のトリートメントが効果的です。 - 一方で、しっとり重ためが苦手な方は、揮発性シリコーン主体の軽めの処方がおすすめです。
- 肌に関しても、毛穴詰まりやべたつきが気になる方は、
使用量を控えたり、部分的に使い分けるのがポイントです。
■ ポイント④:“ノンシリコーン”を盲信しない
- ノンシリコーン=肌に優しい、とは限りません。
ノンシリコーンでも、代替成分が肌に合わないケースもあります。 - シリコーンはアレルゲンになりにくく、皮膚刺激も極めて少ない成分。
肌が弱い方ほど“ノンシリコーンだから安全”という思い込みには注意が必要です。
シリコーンは、“使いすぎ”や“落としきれない状態”でこそトラブルの要因になるかもしれませんが、それは他の化粧品成分でも同様のことが言えます。重要なのは、「正しく使って、正しく落とす」こと。それだけで、シリコーンは頼れる美のパートナーになります。
第6章:よくある質問(Q&A)|シリコーンへの誤解と本当の姿

Q1.「ノンシリコーンの方が肌や髪に優しいのでは?」
→ 必ずしもそうではありません。
ノンシリコーン製品は、代替成分に油分や植物由来成分、ポリマーなどを使うことがあり、それが肌に合わないケースもあります。一方で、シリコーンは刺激性・毒性が非常に低く、アレルゲンにもなりにくいため、敏感肌処方にも採用される安全な素材です。
Q2.「シリコーンは肌に膜を張って“呼吸を妨げる”のでは?」
→ 肌は呼吸していません。
皮膚は呼吸器官ではなく、空気中の酸素を取り込むことはありません。シリコーンが形成するのは通気性を持った柔軟な膜であり、水分の蒸発を防ぎながら、外的刺激をブロックする働きがあります。
Q3.「毛穴を詰まらせるというのは本当ですか?」
→ 根拠の薄い誤解です。
シリコーンは分子量が大きく、肌の表面にとどまる性質があります。毛穴の奥に浸透することはなく、皮脂や角栓のように詰まることはほぼありません。ただし、洗い流さない製品を重ねすぎたり、洗浄不足があると、他の成分と混ざって負担になる場合もあります。
Q4.「カラーの色持ちにはシリコーンが関係してるの?」
→ はい、特にアミノ変性シリコーンが効果的です。
代表的なのがアモジメチコンで、これは毛髪のダメージ部に選択的に吸着し、カラー染料の流出を抑えてくれます。シリコーンの“ただコーティングするだけ”ではなく、毛髪の状態に応じた吸着性があるタイプが、色持ちには最適です。
Q5.「クレンジングで落ちにくいというのは本当?」
→ 処方次第で十分に落ちます。
確かにシリコーンは水には不溶ですが、界面活性剤や油分と相性がよいため、通常のクレンジングやシャンプーで除去可能です。特に最近の処方は、揮発性タイプや分散性を高めた設計が多く、「残る」「べたつく」という印象は過去の話と言ってよいでしょう。
第7章:まとめ|シリコーンは“見た目も中身も整える”賢い成分

「ノンシリコンの方がなんとなく良さそう」
「成分表示に“〇〇メチコンってあったら避けてる」
――そう感じていた方も、今日で考え方が少し変わったのではないでしょうか?
科学的に見たシリコーンの本当の姿
- 酸化や変質に強く、安定性が高い
- アレルゲンになりにくく、安全性が高い
- 揮発性、柔軟性、撥水性に優れ、仕上がりの質感を高める
- 肌や髪を守る“摩擦軽減膜”として機能する
そして、なにより大切なのは――「成分そのもの」ではなく、「どう使うか」です。
誤解から自由になることは、“選べる力”を手に入れること
「シリコーンが入ってるからダメ」
「ノンシリコーンだから安心」
この“二択の世界”から卒業し、肌や髪の状態に合わせて、自分で選べる感覚を持つこと。それが、真に美しく、健やかで、自立したケアにつながります。
最後にひとこと
「シリコーンは、ただ“表面をきれいにする”だけの成分ではありません。
それは、“摩擦を減らし、質感を整えるという科学的な知性”がつまった素材です。
正しく知ることで、肌も髪も、そして選択も、しなやかに。
――それが、科学で美しさを守るということです。」
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